兵庫県高等学校体育連盟テニス部

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平成16年度女子回顧録 神戸野田高校顧問 石川潤

 平成16年10月2日(土)、兵庫県高等学校対抗テニス新人大会女子団体戦準決勝、神戸総合運動公園15番コートを明石城西高校の門田監督が走りまわって大の字に寝ころび勝利の喜びを表現した。その姿は私には1995年ウィンブルドンでベスト8入りを決めた松岡修造にダブって見えた。それくらい私にとっては衝撃的な瞬間であった。

 テニスのことは何も分からないまま20年前から兵庫県で女子テニス部顧問をしてきた私にとって明石城西が倒した相手の夙川学院は雲の上の存在で、県内では園田学園以外に負ける姿などは想像できなかったのである。現に私が顧問になってからは兵庫県高体連の女子団体戦決勝は私の記憶している限りそのすべてが夙川学院対園田学園というカードで、個人戦ですら夙川・園田以外の選手二名が決勝を戦ったのは昨年の新人戦の守内(須磨学園)対上島(県立国際)くらいのものである。兵庫県の高校女子テニスの歴史の中、新人戦の団体が園田・夙川両校のスーパーシード制で長年運営されてきたのも両校の継続的かつ圧倒的な強さがあってのことである。

 ドラマはこれだけでは終わらなかった。翌日10月3日(日)第1シードの園田学園対明石城西の決勝はS1とD1を園田学園が先取、D2とS3を明石城西が取り返すといった両者譲らぬ展開。すべてがフルセットにもつれ込んだ13番コートS2の中西(園田)対松尾(城西)の試合にかかった。第3セットは中西から4-1アップでコートチェンジ、この試合を見ていたほとんどの人が園田の勝利を予想していたのではないかと思う。

 ところが、ここから中西に異変が起きた。私の勝手な想像でしかないが足に来たと思われる中西のショットにミスが目立ち始め、松尾が追い上げていく。これを気力でカバーする中西は要所で気合のこもったストロークを放ち、ネットに出てプレッシャーをかけるなど試合巧者ぶりを発揮するもついに試合はファイナルセットタイブレークに入る。ここからの試合は両者まったく譲らず、まさに名勝負というにふさわしい試合となった。万全の状態とはいえないながら思い切りの良いショットをここという場面で打ち切る中西のメンタルタフネス、それにチャレンジャー精神で向かって行く松尾、声を枯らして応援を続ける両校の選手たちの姿。プロの試合でもなかなか見られない好ゲームに私は感動し固 唾を呑んで見つめていた。二回目のコートチェンジを終えたタイブレーク、松尾から7-6のスコアで中西の球がバックアウト、そのとき歴史が動いた。兵庫県女子テニス部の団体戦ではじめて公立高校の明石城西が優勝したのである。

 明石城西の団体優勝のことばかりを書かせていただいたが、この1年全体を振り返ってみたいと思う。

 まず総体であるが団体は夙川学院が県で優勝、近畿高校選抜でも第1シードの長尾谷を下して優勝、岡山県備前市で行われた全国総体では3位となった。個人戦シングルは県で久見(園田)が優勝、逆に近畿高校選抜では加藤(夙川)が優勝。久見、石田(園田)、加藤、上島(県立国際)、三杉(園田)、峯垣(園田)の6名が出場した全国では久見がベスト8、第2シードに2回戦であたった三杉を除いた残り4名が3回戦進出。個人戦ダブルスは県で加藤・小川(夙川)が優勝、近畿選抜でも加藤・小川が優勝、久見・須賀田(園田)準優勝、三杉・峯垣(園田)ベスト4。この3組で挑んだ全国では加藤・小川が準優勝、三杉・峯垣ベスト8、久見・須賀田ベスト16と今年も兵庫県のレベルの高さを見せ付ける形となった。

 新人戦団体は新しい力が伸びてきて、兵庫県は戦国時代になったように感じた。優勝の明石城西のニュースの陰になってしまっているが、テニス部創部2年目にしてベスト4に入った加古川南高校はまさにあっぱれである。それ以外にも5ポイントの団体戦でシングル3本を1回も落とさずにベスト10入りし、武庫川大学附属に2-3と惜敗した宝塚西高校も注目株。両校とも3ポイントの春の総体でどこまで行くかが楽しみである。

 逆に個人戦では夙川学院が団体戦の雪辱を晴らす形となった。シングルでは県民大会で準優勝をした井本(芦大附属)が第1シードだったが優勝は秋元(夙川)、準優勝が松岡(夙川)、ベスト4が花田(夙川)と寺井(夙川)でベスト4以上を夙川が独占する結果。また、ダブルスでも優勝は小笹・辰野(夙川)、準優勝は秋葉・藤沢(園田)、ベスト4が井ノ本・日下部(明石城西)、松岡・寺井(夙川)と夙川の1年生の層の厚さを感じさせられる大会となった。この1年生が次年度の総体までどこまで力をつけるか楽しみである。

 最後に、この1年間回顧録を書くにあたってインターハイ5日間を含め出来る限り多くの試合を見てきた。その中で1番印象に残った試合を挙げるとしたら、県民大会本戦シングル5回戦北藤(夙川)対馬川(明石城西)である。この試合、第1セットは実力が上の北藤が簡単に6-1で勝利し、第2セットもリードしていた。しかし、北藤の足が痙攣を起こし第2セットは(5)6-7で馬川が取りファイナルセットに入る形となった。私が見ている限りこの時点で北藤は試合ができないと思えるくらい動けなかった。そして、第3セットは馬川が取るか、北藤が棄権するであろうと思いながら見ていた。ところが、そこから北藤の驚異的な粘りのテニスが始まる。1回1回のポイントのたびに屈伸をしたりしながらなんとか気力で試合を進めて行く北藤の精神力、そしてどんなときでもルールの時間の範囲内で構えようとするフェアプ レイに吸い寄せられるように私はその試合に見入ってしまった。最終的にファイナルセットは北藤が両足を痙攣しながらも7-5で勝利し準決勝に進んだ。その準決勝こそ井本(芦大附属)に第1セットを取られた後の第2セット1-2で棄権したが、絶対に最後まで試合を捨てなかった。コートの後ろにタオルを置いて1回1回顔を拭きに行ったり、思い通りのプレーが出来ないとラケットをわざと落としたりする高校生選手が増えてきた昨今、このような礼儀正しい高校生らしいファイトあふれるプレーを見て救われた。指導者として、また県の役員としてただ強いだけでなくこのような選手が一人でも多く育てられたらとつくづく教えられた気がした。

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